続・時計愛好家ビギナーが犯す12の過ちと回避策 by Stephen, P

昨年、HODINKEEで読んだ記事の続編。先日、日本語訳がなされていた。
もちろん、昨年に書かれた前編も興味深い内容だったが、後編も面白かった。

この記事の内容が全てでは無いけれど、少なくとも僕はこの前編と後編に渡る記事に「ごもっとも」と思ったし、以前からそう心掛けてお客様と接してきたつもりだ。それはカメラビジネスも然り。
是非、お時間があれば読んで欲しいと思う。以下、HODINKEEより。

HODINKEEの記事で質問やコメントを一番多く頂戴するのが、ベンが2016年後半に書いた時計愛好家ビギナーが犯す12の過ちと回避策(かつて同じ過ちを犯した者より)です。この記事は、この界隈に足を踏み入れたばかりの人も、何十年もオークションに参加しているような玄人でも時計に興味を持つ人なら、誰にとっても素晴らしい手引きとなります。それでも、時計という趣味には、12以上の落とし穴があります;今回僕らHODINKEEでは、もっと身近なところで、どのように落とし穴が現れて、どのように押し切っていくのかをご紹介したいと思います。

 それを念頭に、僕と同僚たちからの12の親切なアドバイスを厳選しました。僕はここで挙げた過ちの全てを経験済みですので(正直に言うと、いまだに時々繰り返してしまいます)、身をもって知る人からのアドバイスは貴重でしょう。そして、もちろん提案や感想はコメント欄にどうぞ。お互いに教え合いましょう。

1.”程度のそこそこ”な傑作時計を購入すること

 これはビギナーが犯しがちな間違いの典型ですね。時計にハマり始めて、予算の制約があるものの、ど〜しても欲しい[高価な/魅力的な]時計があったとします。けれども、その衝動は抑えて。間違っても、研磨でケース痩せしたサブマリーナーや、針が交換されベゼルに亀裂の入った、またブレスレットが壊れかけたスピードマスターを買ってはいけません。良いなと思えるのも10分程度で、そこから劣化が始まるのです。劣化はどんどん進みます。そして、次第になんてバカな買い物をしたんだろうと自分を苛むのです。

 僕も同じでした! 遡ること2013年、僕はeBayでチューダー プリンスデイトデイを数百ドルで購入しました。購入当初から薄汚れていましたが、当時僕は(ロレックスの)デイデイト的な時計が欲しかったのです。ダイヤルの状態は良くなかったし、ブレスレットもなし、さらにムーブメントは”要オーバーホール”でした。僕が買ったのは時計ではなく、むしろ3〜4の時計店を巻き込み6ヵ月間に及んで失望を繰り返した頭痛のタネが大部分で、残りは仲間のコレクターからの「マジでそんなものを買ったの?」という憐みの視線でした。結局、僕はそれを友人のディーラーにパーツとして売ることとなり、その過程で損をしました。もっとちゃんとした個体のためにお金を取っておくべきでした―今回の記事のネタにする代わりに、今頃素晴らしい時計を持っていただろうに、惜しいことをしたものです。

 耳にタコができるほど聞いたことかもしれませんが、自分の買える範囲で、一番良い状態の個体を買うことです。もし欲しいモデルの状態の良い個体が見つからないのであれば、買えるようになるまで待つか、別のモデルを探すこと。長期的にはそれが幸せへの近道ですし、その過程で得られる学びもあるでしょう。

2.オークションで見落とされた時計を安く狙い撃ちできると思い込むこと

 これも似た話です。オークションのカタログを拾い読みしながら、居並ぶ目玉商品の中で誰も注目しないようなページに、クールな時計を発見したとしましょう。数年前に生産終了したF.P.ジュルヌや、1970年代のマットダイヤルのロレックス エクスプローラー、はたまた渋く経年変化したヴィンテージのブライトリング製クロノグラフあたりを想像してみましょうか。落札予想額は低く(詳細はすぐに分かります)、誰もその時計のことなど気づかずに大物ばかりに注目が集まっていると、あなたは思うかもしれません。

 ところが、時計収集と売買ゲームには海千山千のやり手がウヨウヨいて、そういう手合いがこのヤマ場に多大なエネルギーと資金を注ぎ込んでいるのです。だから、基本的にほぼ全てのケースで、他人を出し抜いて安く落札できるなんてことはないのです。オークションは販売業者と卸売業者が在庫を補充するために、利幅の良い時計を血眼になって求める弱肉強食の世界なのです。だから、買い得な品が出ると、皆が殺到して値が上がっていく。時計の落札が市場価格を下回ることは滅多にない出来事だということがおわかりでしょうか。

 誤解を恐れずに言いましょう。オークションに参加して、時計が買い叩かれるのを阻止するかの如く入札するのです! そうすれば、目当てのロットのオークションが開始した時の心の高鳴り、自分の入札に高値が付いてしまったときのバカな考えが頭をよぎるあの感覚を味わえば、オークションがどんな原理で機能するかがよく理解できるのです。「もう1000ドル突っ込んでみようか?」僕は昔、美しいワッフルダイヤルのデイトジャストでこれをやってしまい、見事落札し損ねました。僕は後日、その時計が知り合いの手に渡ったことを知り、おそらく、今でも彼はそれを手放していないはず。それもまた人生なのです。

3.ヴィンテージか最新モデルに偏った探し方

 時計界隈という異世界は、とかく物事を白黒はっきりつけたがる傾向にあります。これが恐ろしいことで、どれだけ多くの人の時計収集の道を絶ち、互いをネガティブな関係に陥らせるか枚挙に暇がないほどですが、それは別の機会に譲りましょう。ただし、次の一点だけ言わせてください。

 ”ヴィンテージマニア”や”最新モデル追っかけ”になる必要はありません。どんな形であれ、時計業界が送り届ける体験にオープンでありさえすれば、単に時計愛好家というだけで良いのです。同僚のジャック(・フォースター)が最近僕に思い出させてくれたことは、時計には500年を優に超える歴史があるということで、10年や20年そこらの時計のトレンドだけで知ったつもりになるのは、かなり馬鹿げたことだということ。もちろん、自分の好みを掘り下げて専門分野にすることもできるでしょう。しかし、それには長い時間をかけて体系的に成し遂げる必要があるのです。あなたが最初の時計を買うとき、腕にタトゥーをいれてまで背負うようなモットーを掲げる必要はないのです。

 ここでご提案:お互いに関連のあるヴィンテージウォッチと現行モデルを交互に日常使いしてみることです。ヴィンテージのロレックス サブマリーナーとセラクロムベゼルモデルの組み合わせでも良いですし、パテックのカラトラバ Ref.96と現行のRef.5196を並べるのでも良いのです。コレクター仲間から気軽に時計を借りるか、店頭で試すのもありですね。そうすれば、核心は同じモデルでも、違いを見分けるための膨大な経験値が得られ、次第に、何が自分に合うのかが分るでしょう。その結果が”両方”という答えだと一番良いですね。

4.ブレスレットモデルに限定して時計を選ぶこと

  ブレスレットモデルは今日び羨望の的です。一体型ブレスレットがアイデンティティのロイヤル オークやノーチラスのような時計は、入手まで数年は覚悟する必要があり、ショーケースに並んだ現行のステンレスブレスレットのロレックスを、世界中にあるブティックのショーケースから探し出せるものなら、ぜひやってみて欲しい。比重が高く、うっかりするとブレスレットが傷つきやすい金無垢のブレスレットモデルですら、今や大人気で品薄なのです。
 誤解しないで欲しいのは、僕自身ブレスレットモデルのファンです。実際、僕はロレックス エクスプローラーを購入したのは、特別なブレスレット(”ロレックス オイスター エクスパンション ブレスレット”でググってみてください)が付いているという理由が大きいのですが、ブレスレットモデルだけが選択肢というわけではないのです。

 ストラップも素晴らしいと思います。飽きが来ればすぐに交換してコレクションに彩りを与えることも可能です。裏地のないコードバンを売却して目の粗いスエードストラップに交換したり、くたびれてきた革ベルトをNATOストラップと交換したりと自由自在です。ストラップの選択肢はまさに無尽蔵で、多くのメーカーが新素材、仕上げ、カラーバリエーションを日々模索しているので、楽しみも尽きることはありません。

 2つの基本的なアドバイスをお教えしましょう。1つめは、ブレスレットに限定した時計選びをしないこと。ともすれば時代を超えた名作時計を見落とすことにもなりかねず、それはひどく残念なことだと思うのです。2つめはブレスレットを外してストラップに換装してみることです。以前には気づかなかったような愛すべき点が見つかるに違いないでしょう。または、新たな時計の着けこなしが編み出せるかもしれません。手持ちの時計のポテンシャルを引き出すうえで、効果的な方法なのです。

5.ロレックスのスポーツモデルを所有しないこと

 この記事の前任者であるベンは、収集歴のどこかの時点でオメガ スピードマスターを所有することを薦めました。僕は今でもそれは鉄板のアドバイスと思います。たとえ、最後は手放すことになったとしても、朝起きて腕に巻く経験がなければスピーディ(訳注:スピードマスターの愛称)の真価を理解したとはいえないでしょう。歴史と時計づくり、そして文化の香りを完璧にカプセル化した時計として、唯一無二の存在なのです。

 「人生のどこかの時点で手に入れておくべき時計」のリストにあるものを追加しましょう:ヴィンテージ・ロレックスのスポーツモデルです。1980年代後半から始まり最近10年そこらで全盛期に達した現代の時計収集市場は、基本的にはヴィンテージ・ロレックスを中心に形成されました。この中にはデイトナマニアや、70年代のサブマリーナーを事実上の”クールなメンズウォッチ”に押し上げたことも含まれるのです。いかにしてヴィンテージウォッチ収集がメインストリームに近づいたのかを理解するためには、ヴィンテージ・ロレックスから始める必要があるのです。

 僕がヴィンテージ・ロレックスのスポーツモデルから始めなさいとアドバイスするのは、これらは、現在も存在するカテゴリーを決定づけたマスターピースだからです。サブマリーナーや、色褪せたベゼルのGMTマスター、状態の良いダイヤル、色々探せば興味深い個体が手に入るかもしれません(アンダーラインダイヤル、スモールGMT針など)。究極の一本を見つけるまでに膨大な知見を得ることで、ヴィンテージ・ロレックスの全てを経験することができるのです。
 デイトナは素晴らしいのですが、その価格から入門者にとってハードルは高め。エクスプローラーシリーズは僕の好みですが、ベゼルのあるモデル(訳注:エクスプローラーⅡ)は手に入りません。そして、これらの時計があまりにも高価だと感じれば、これまた素晴らしいデイトジャストかエアキングを探してみるのです。経験と知識が80%程度得られると、もう引き返すことができなくなるでしょう。

6.”投資対象”として時計に投機すること

 これがリストアップした中で最も犯しやすい過ちです。時計愛好家のビギナーが値段を見てびっくりすることは世界中どこでも同じだろうと思います。質の高い時計は高価だと刷り込まれている人ですら、50年物のスポーツウォッチに数万ドル(数百万円)単位の値が付いているのを目にすれば少なくとも数秒は「ちょ、待てよ」と考えない人はいないのではないでしょうか。苦労して稼いだお金を時計に投じるとなると、それは単にモノを買う行為にとどまらない意味を持つことになるのです。

 ただ、常にそうなるとは限りません。美術品や車、その他の収集品と同様、時計は中古の現行モデルでもクラシックなヴィンテージモデルでも、市況の影響を受けます。人気の高いモデルを買うために努力するのも、状態の良い個体を買うのも、出どころの怪しい時計を掴まされずに本物を手に入れるよう慎重になることも、あなた次第なのです。

 ただし、最終的には、流行をコントロールすることなどできないのです。世界経済も然りです。時計収集界隈に何が起こっても制御することなどできません。賢く購入して、お金をドブに捨ててはいけませんが、好きなものを購入するように心がけてください。安定した収益率を確保したいと願うなら、その要望に適う金融商品が別にあります。そこに喜びが見いだせ、知的好奇心を満たし、お金を無駄にすることを望まないのであれば、時計は素晴らしい選択肢となります。もし売ったときに利益が出たなら、なおさら良いとは思いませんか!?

7.自社製ムーブメントが一番だと考えること

 ”自社製”という枕詞は、現代の時計業界の歴史における最も大きなマーケティングの成果かもしれません。20~30年前までは、そのことについて、誰も話題にしなかったのです。ところが、最近になって大量生産の時計よりも機械式時計の価値が高くなり、自らの製品を差別化するのと同時に、高価格であることを正当化する方便を模索する必要があるのです。また、クォーツ危機以前に時計業界を牛耳っていたサプライチェーンのダイナミズムはもはや存在せず、ブランドは自らがその生殺与奪を握ることに投資したいと考えました。”自社製”ムーブメント時代の幕開けです。

 自社製ムーブメントが、一歩前進を象徴したり、ユニークな何かを提供する体験は多くあります。追加モジュールが組み込まれたETA製ムーブメントのランゲ1を見たいと思いますか? それは、御免ですよね。
 または、パテック フィリップのクロノグラフが長年採用してきたレマニアベースのムーブメントを、徐々に自社製クロノグラフムーブメントに移行することに心惹かれるでしょうか? これにはもちろんアグリーです。しかし、ヒストリーク・コルヌ・ドゥ・ヴァッシュ(ヴァシュロン・コンスタンタン)にレマニアベースのキャリバーが採用されているからといって、劣った印象をもつでしょうか? それは全く違います。15万円前後のダイバーズウォッチが、シースルーバックではない裏蓋の内部に、セリタ製の代わりに”自社製”ムーブメントを積むことで27万円前後にまで値上げされることを本当に僕が望んでいるでしょうか? そんなのは絶対嫌です。

 これは、時計界隈に張り巡らされた網に投げ込まれた白黒はっきりしている知見を無視して、根拠の曖昧なものを選択してしまう別の悪い見本です。自社製ムーブメントが明らかに功を奏し、独自性を与える状況がある一方で、自社製という要件を満たしただけで、ユーザーに恩恵が全くないものもあるのです。正しいとされる情報を鵜呑みにする前に、なるべくたくさんの情報を仕入れたうえで、常に「どうして?」と自問しましょう。

8.Instagramに投稿された時計の画像が本人所有と思い込むこと

 Instagramは西部開拓時代の荒野のようなものです。素晴らしいものが破格で売られてるって? それはおそらく「釣り」です。この世の全てのリファレンスを集めたかのように見えるコレクターを見たことがあるって? 彼らは多分Google画像検索の達人なのでしょう。

 僕はこの分野に関して悲観論者です。Instagramは確かに、時計コミュニティを成長させ、日常的に素晴らしい時計を疑似体験するための最適なツールかもしれませんが、スクリーンをスワイプし、タップしている間も、懐疑的になる必要があるのです。フォローを買ってそれを大っぴらにしてなくても大した害はありません。それで自己満足できるなら、やれば良いと思います。物を売るのに正当化したり、時計を売る誰かが購入希望者をそそのかすために、よく似た別の時計の写真をアップしたりし始めるから、ことが面倒になるのです。

 ここでシンプルなアドバイスをすると、Instagramで見たものに対してお金を払おうとするときは、情報元のチェックと、簡単な調査をしてみることです。10回中8〜9回は大丈夫かもしれません。でも、その中のひとつでも腐った卵が紛れ込んだがために銀行に通報しなきゃならないなんて嫌なはずです。

9.ヴィンテージウォッチなら何でも”研磨されていない”とすること

 熟練の時計収集家を苛立たせたい? それなら”研磨されていない”という言葉を時代遅れ風に投げかけてみることです。この世界に身を置いてれば、遅かれ早かれ本当に研磨されたことのないヴィンテージウォッチの数が比較的少なく、WebフォーラムやディーラーのWebサイトでその形容詞と共に紹介されている時計の数より、実際は遥かに少ないことを知ることになります。研磨されたことがないと形容されうるのは、次のようなシナリオだけ―あなたの知る限り、その時計にバフがけ機が当てられたことがないというだけのこと。簡単なことですね。

 ヴィンテージウォッチは、あなたの時間とお金を投じるのに見合うほど、研磨されていないことに価値があるものではありません。ホールマークが残った、ラグの傾斜がはっきりしている、40~50年前に小さな修正を加えたにも関わらず、エッジの残ったケースの状態の素晴らしい時計はゴマンとあるのです。確かに、全てが等しく研磨されていない時計は通常好ましいのですが、売り手が軽く研磨したと説明したからといって、買ってはいけないと判断しないでください。

 その形容詞や、人がどのようにその売り文句を使っているか言葉尻をなぞるよりも重要なことは、その時計に手が加えられていない理想的な状態を知ったうえで、対象となる個体を比較してみることです。自分が探しているものがはっきりしていれば、自分自身の目利きでその時計を判断することができるので、恣意的に用いられがちなこれらのフレーズに頼る必要はないのです。古いオークションカタログ、オリジナルの販促用パンフレット、デッドストックを実際に見ることは貴重な情報源です。だからこそ、宿題をこなすのです。そうすれば報われるでしょう。

10.トレンドを追いかけること

 時計界隈に慣れていない人は、何十年も評価される時計や、時代遅れにならない時計など、基本的にその普遍性が強調された話題が多いことに気づくでしょう。しかし、だからといって、好き嫌いやトレンドがないというわけではないのです。実際はその逆です。これらのトレンドには、数年ごとに移ろうものもあれば、長いものもあるのですが、その傾向は確かにあり、特定するのはそれほど難しいことではありません。

 ”絶対に追いかけるべからず”。他人が好む時計を追い求め、同じ時計を持つ必要があると錯覚したり、時計コミュニティの他の人を出し抜く必要があると感じたりするのは破滅への序章となります。あなたが本当はそれほど欲しくないと時計に多額のお金を費やすことになるからです。そうしなければ楽しめたはずの時計が、手に入らなくなります。自分の目を信じて、色々と試行錯誤して、Instagramにいいねされなくても、自分の手首を眺め、あなたを他の多くの儚いデジタルの気まぐれよりもその金属の塊が幸せを与えてくれるか実感してください。

 ここでひとつ注意点を。自分のコンフォートゾーンを超えて試してみることを恐れず、他の人がなぜそれを好むのかを分析することです。僕は現時点で、時刻表示のみとカレンダー付きの時計を所有していて、それらは直径35mmから40mmの範囲内に収まっています。シンプルで質実剛健な時計はまさに僕にぴったりくるのです。それらは僕の好みに合い、装いにも寄り添い、僕はその細部にも抗いがたい魅力を感じるのです。そんな僕も、クロノグラフや複雑時計に手を出したことがあったのです。僕は最大45mm、最小31mmの時計のどちらも所有したことがあります。僕はそれらを、身をもって試し、それについて調べ、自分には合ってないことを理解しました。僕は人がなぜこのような時計を好むか理解できたつもりですが、自分の考えを無理強いするのではなく、自分が探り当てた時計を収集することにもう迷いはありません。

11.オークションの落札予想額を神の啓示と信じること

 オークションハウスは売主に仕えるのであって、買主にではないのです。そのことを忘れないでください。チームがどれほど誠実であっても、競売人がどれほど信じられないくらい素晴らしくても、オークションハウスにはただ1つの使命があるのです。全てのロットを可能な限り高く売ることです。委託者はもちろん、オークションハウスも委託手数料を求めて勝ちに行き、同じ時計を巡って3〜4のオークションハウスが競合すると、他の潜在的な委託者に自分を選ぶよう仕向けるのです。

 彼らはこれを達成するための、多くの仕掛けを持っています。個人のクライアント、広報活動、そしてもちろんカタログです。時計を宣伝するだけでなく、オークションの落札予想額自体も特定のロットに注目を集めるために役立つ仕掛けです。予想額が低ければ、私たちの脳内では、取引できるかもしれないと変換されます(忘れたのなら本稿のNo.2をもう一度ご参照ください)。通常、時計に”取り置きなし”マークが付けられていない限り、その低い見積額は最低落札額となります。それ以下であれば、見送られ、委託者の元へ返却されます。

 時計に低い予想額または狭い値幅を設定することによって、オークションハウスは熱狂の最中に束の間の幸福を感じる入札者を量産することができるのです。これは入札に狂乱、望ましい状況、そしてドラマをオークションルームに生み出します。それはまた、最後のハンマーが鳴る瞬間、購入者以外の誰もが固唾を飲んで見守るような興奮を引き起こします。

 ここでの本当の要点は、落札予想額は単純にガイドラインだということで、時計が買い物袋に入れられていると思わせたり、通常やらないような方法で入札させようとけしかけたり、時計の実際の価値に対する自分の考えに影響を与えたりするべきではないのです。それは単純明快なマーケティングなのです。

12.手持ちの時計を楽しむことを忘れること

 僕が時計を通じて学んだ中で、最も重要なこと。それは、自分のコレクションにある時計を楽しむこと。とてもシンプルなことですが、実践するとなると難しいのです。

 時計収集の大部分は、次に何を買うかということで頭がいっぱいになるものです。それはあなたが追加しようとしている次の1本を探すことであり、数えきれないほどの個体をふるいにかけて特別な1本を探し当てることで、個々の時計というよりはコレクションを増やすことが目的化することなのです。それはそれで素晴らしいことで、多くの楽しみがそこにありますが、時計の醍醐味とは、生活を共にし、実際に体験し、時と忍耐によってのみ見えてくる細かいところを見つけることにあるのです。

 僕は何か新しいものを購入する疼きを感じ始めると、自分のコレクションボックスを開けて、最初に古い時計を着けることにしています(それから、いずれどのみち何か買ってしまうのですが)。自分の時計を楽しみ、どうやって手に入れたか思い出し、なぜ最初に興奮を覚えたのか、そして共に過ごした瞬間を思い出してください。コレクションの大小に関係なく、あるいは最近新しく購入したかどうかに関係なく、自分の手元にある時計にこそ喜びが埋もれているのです。

し、まだ見ていない方は時計愛好家ビギナーが犯す12の過ちと回避策(かつて同じ過ちを犯した者より)をお読みになることもお忘れなく。

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